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コナー・フィッツジェラルド
- 債券ポートフォリオ・マネジャー
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現在は、構造的に高いインフレ率、より高いボラティリティ、より短い市場サイクルといった、これまでとは根本的に異なる経済環境にあります。こうした環境は、債券のアクティブ運用に魅力的な投資機会をもたらす可能性があります。このような機会は、不確実性が高まっているにも関わらず起こっている、というよりむしろ、高まっているために起こっている、と私は捉えています。つまり、不確実性が債券投資家にとって機会となり得るということです。ただし、柔軟性と規律の適切なバランスを保つことが鍵となります。
債券市場は、常に変化し続ける方程式として捉えられることが多く、そこには良い結果(結果A)と悪い結果(結果B)の両方が存在します。しかし、現在のように不確実性が高まっている経済環境では、将来どちらの結果が起こるかを正確に予測し、それに基づいてポートフォリオを構築することは、現実的とは言えません。
その代わりに注目すべきなのは、「クラウデッド・トレード(取引集中状態)」です。つまり、市場が「結果Aが起こる確率が、結果Bよりもはるかに高い」と認識している状況を特定し、なぜ結果Bが市場コンセンサスや価格が示すよりも高い確率で起こり得るのかを分析する方が、より価値があると考えられます。
このような視点を持つことで、不確実性は単なるリスクではなく、債券投資家にとってミスプライスを活用する機会となり得ます。現在の市場環境は、地域、業種、発行体間でパフォーマンスのばらつきが拡大し、インフレ率の上昇と景気循環の変動が顕著になるなど、多くの投資機会が生まれています。
このアプローチが実際の運用でどのように機能するのか、具体的な事例を2つご紹介します。
まず一つ目は、2023年の消費者金融業界に関するケースです。当時、市場は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げの影響について懸念を抱いていました。特に、景気が悪化すれば消費者金融会社がリスクにさらされる可能性があると考えられていたのです。
私たちは、景気後退のリスクを完全に否定することはできないと認識しつつも、結果Bの確率について仮説を立てました。それは、米国の消費者は市場が認識していたよりもはるかに健全な状態にあり、金利上昇による消費者への影響は当初懸念されていたほど大きくなく、中小企業は市場が想定するほど地域の金融機関に依存していないという仮説です。この仮説を検証するために、私たちはセクター別の専門家と緊密に連携し、代替データを入念に分析することで、ポートフォリオのポジショニングを通じて、このミスプライスと不確実性を活用することができました。
現実の例が今、目の前に存在します。トランプ政権によるポリシーミックスの影響がもたらす不確実性は、この視点からも捉えることができます。
例えば、結果Aは、トランプ政権の政策が米国経済の成長にポジティブな影響を与え、景気循環やクレジット・サイクルを拡大させる可能性があります。一方、結果Bでは、政策が米国に成長ショックを引き起こし、金融情勢の引き締まりを招くリスクが想定されます。現時点では、市場予測よりも後者のシナリオとなる可能性が高いと考えます。
さらに、トランプ氏の再選は、労働力供給の減少や財政状況の悪化といった根本的な傾向を加速させているように見受けられます。関税は交渉の手段となる可能性はあるものの、実際にはトランプ政権の経済プランにおける唯一の重要な「資金源」として位置づけられているようです。要するに、政府は税制改革の延長や追加的経済対策の財源を確保するため、関税の導入を必要としていると考えられます。当然ながら、ここで見落とされがちなのは、このような政策姿勢がグローバル取引に与える破壊的な影響です。
また、より厳格な移民政策も経済成長にマイナスの影響を与える可能性があります。移民は、労働力供給の拡大を促進するだけでなく、住宅、食料、商品、サービスなどへの需要を生み出す重要な要素でもあります。移民の減少により、これらの需要が縮小すれば、価格の下落が起こる可能性も否定できません。特に、米国が構造的な住宅供給不足の解消を目指してきたことから、住宅部門における移民政策の影響は深刻になる可能性があります。
では、債券投資家は不確実性をどのように活用して利益に結びつけることができるでしょうか?以下の5つのポイントが、そのヒントになるかもしれません。
まず第一に、債券の資産配分は、市場に生じる不均衡を的確に捉えて活用できるよう、十分な柔軟性を備えている必要があります。制約のないアプローチは、ベンチマークに連動するアプローチと比べ、より多くの投資機会を捉えることができるでしょう。
第二に、柔軟性には規律が不可欠です。たしかに、制約のないアプローチは投資機会を広く捉えるうえで有効ですが、その一方で、投資家にとって不要なリスクをもたらす可能性もあります。そのため、回復力のある一貫した投資枠組みを採用し、すべての意思決定において、価格変動に伴うリスク(上振れリスクと下振れリスク)を継続的に評価することで、「あらゆる市場環境に対応した」トータルリターンの実現を支えることが可能になります。
第三に、インカムだけでなくトータルリターンに焦点を当てることも重要です。
利回りに過度に注目する投資家は、インカムを得るために過大なコストを支払うリスクがあり、価格ボラティリティがリターンに与える影響を過小評価しがちです。債券のインカムによる累積リターンと、その価格の移動平均を時間軸で比較することで、トータルリターンに注目することの重要性が明確になります(図表1)。
インカムを重視するあまりトータルリターンを軽視すると、ポートフォリオ内の一部の債券で最大20%近い下落を経験する可能性もあります。一方、トータルリターンを重視し、かつ柔軟に対応できる投資家は、市場環境の変化に応じてポジションを調整することで、不確実性を収益機会として活用できます。その結果、初期の損失を回避しつつ、後の上昇局面にも参加できる可能性が高まります。
第四に、複数の視点から市場を検討することが重要です。債券投資家として、私たちは当然ながら中央銀行の動向、インフレ率、およびマクロ経済指標などを綿密に分析します。しかし、真に優れた投資判断を下すためには、一件関係が薄そうに見える視点からの洞察も活用すべきです。例えば、株式投資家の視点で発行体を分析したり、地政学的な変化がもたらす潜在的な影響を評価することが挙げられます。
第五に、ネガティブな市場イベントが発生するのを待つのではなく、あらかじめ十分な流動性を確保しておくことで、機会が訪れた際に迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。市場のスプレッドが縮小する局面では、「ドライパウダー」を高い水準で維持することで、スプレッドがより魅力的な水準に拡大した際に買いを入れる機会が得られます。
図表1
トータルリターンに注目
ボラティリティがインカム重視の債券投資家に大幅な下落をもたらす可能性
累積元本リターンと累積インカムリターンの比較(%)
現在のように変動の動きが激しい市場環境では、投資の見通しを立てるのが一段と難しく感じられます。しかし、そうした不透明な環境の中でも、米国経済にはいくつかの前向きな兆候が見え始めています。機敏かつ柔軟なアプローチを重視したクレジット戦略には、十分な機会があると考えられます。